月次の売上レポートを見て、前月比の増減を確認する。多くの企業のデータ活用は、そこで止まっています。

ダッシュボード(売上・流入・コンバージョン率といった指標をリアルタイムで一覧できる管理画面)は、「何が起きているか」を把握するのに優れています。しかし、なぜその数字になったのか、次に何が起きるのかは教えてくれません。この「見えていない部分」こそが、企業間の差を生みます。

データ活用には成熟度があります。「何が起きているか」を把握するところから、「なぜ起きているか」を分析し、「次に何が起きるか」を予測するところへ。上に行くほど、データが直接競争優位に結びつきます。

何が起きているか

売上、流入、コンバージョン率——こうした指標は、自社のECが今どういう状態にあるかを把握する土台です。多くの企業がこの数字を日々確認しています。

ただし、傾向の背景までは見えません。なぜ特定の商品が他より売れるのか、なぜ顧客がカートを離れるのか。その理由は、集計された数字には表れません。

多くの海外企業のECを手がけてきた経験では、この段階で止まっているケースは国を問わず珍しくありません。実際の施策につながらない指標を追い続けていたり、顧客行動の背景を掘り下げる仕組みが整っていなかったりします。その分、少し踏み込むだけで取れる成果が残っています。

なぜ起きているか

傾向の背景を理解するには、集計前の生データに向き合う必要があります。クリック、ページ閲覧、カートの動き、購入手続きの試行——こうした顧客行動の詳細な記録です。

このデータで顧客を行動ごとに分類します。リピート顧客、購入を途中でやめた顧客、一度きりの顧客。こうした分類を分析することで、購入フローのどこに滞りがあるかが見えてきます。

弊社が担当した事例のひとつです。国内大手の子ども向け商品ECで、特定カテゴリーのコンバージョンが低いという課題がありました。サイズや色の選択に問題があると見立てていましたが、確証が持てずにいました。

購入フロー全体のデータに商品の詳細情報(色・価格など)を組み合わせ、離脱した取引についても同じ情報を追えるよう基盤を整えました。これにより、顧客が購入をやめる直前に何をしていたかが初めて見えるようになりました。

原因はベビーシューズの在庫切れでした。特定サイズへの需要が高く、たびたび品切れになっていたのです。欠品すると顧客はそのまま離脱していました。解決策はシンプルでした。そのサイズを常に確保する。加えて、購入フロー途中の画面遷移がわかりにくく離脱を招いていることも判明し、修正しました。

次に何が起きるか

データ活用の最も進んだ段階では、過去の分析から未来の予測へと移ります。顧客のニーズや行動を先読みし、リアルタイムで個別の購買体験を届けます。ここが、ECにおける市場リーダーを分ける差になることが多いです。

別の事例です。弊社は世界展開する大手ファストフードチェーンとともに、顧客データを使った予測モデルを構築しました。リアルタイムの行動データから商品を自動推薦する仕組みです。

顧客が来店するたびに、その人に合わせたデザートをリアルタイムで提案します。全員に同じ商品をすすめる画一的な提案ではなく、直近7日間の人気動向を織り込みながら推薦内容をその場で変えます。推薦される商品には定番より単価の高い季節限定品が多く、そうした商品のコンバージョンが約6倍に伸びました。

データは深く掘るほど価値が出る

どの段階でもデータに意味はあります。ただ、その効果は均等ではありません。現状把握から要因分析、予測へと移るにつれ、競合に対する優位は広がり、事業への影響は大きくなります。

自社のデータ活用が今どこにあるかは、次の問いで確認できます。コンバージョン率が下がったとき、なぜ下がったかを数字で説明できるか。できないなら、「何が」から「なぜ」への移行が次の一手になります。